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2-①.てをあげたのに、どうしてだきしめてくれないんだろう? Братья Карамазовы Млечный путь

Author: ADPh.D.
last update Last Updated: 2025-12-22 17:00:32

 わたくし、アイ・ミルヒシュトラーセが子供の|時分《じぶん》からいつも感じていたのは、ある不思議だった。その疑問は、

 ――てをあげたのに、どうしてだきしめてくれないんだろう?

 というものだった。それはいつも感ぜられる、例えば食卓で、居間でお庭でお外で。家族で集まっていると、よく|シュヴェスター《おねえさま》やエゴペーおねえさま、ゲアーターおにいさまが、お母様やお父様にだっこをせがんでいた。皆小さいので腰の近くまで行って両手を上に向かって伸ばす。そうすると、優しい笑みで、|若《も》しくは呆れ笑いと共に抱き上げてくれるらしいのだった。それをみて、3才の私も愛する人の温もりを肌で感じたくて、

――ああすればだきしめてもらえるんだ!あいも!あいも!

 と思って小さい歩幅でお母様の|膝《ひざ》の方に駆けていった、そして両手を広げて、期待に満ち満ちた表情で待っていた。

 ――だがその瞬間は永遠に訪れなかった――。

 お母様は|忌々《いまいま》し気にわたくしを|一瞥《いちべつ》したのち他のきょうだいのほうへいってしまった。その時かもしれない、わたくしは彼らの形式上の家族の一員ではあるけれども、わたくしは彼らの家族ではないのだ、ということに気が付いたのは。あまりに遅く、気が付いてしまったのは。

 ◇◆◇

 この時空には上から天国・|煉獄《れんごく》・|文学界《リテラチュア》・|地獄《パンドラ》という順に世界が存在している。リテラチュアと呼ばれる現世には、広大な大地と大海が広がっている。

 その西の果て、|極西《きょくせい》は、早々に|地獄《パンドラ》資源の活用に乗り出し、長い歴史を誇るファンタジア王国が支配していた。

 そのさらに西にあるパンドラ公国、ファンタジア王国の現王の子が|君臨《くんりん》する公国ではあるが、統治する実権はミルヒシュトラーセ|辺境伯爵《へんきょうはくしゃく》家が握っている。この国は西の|蛮族《ばんぞく》に対抗する為の|緩衝《かんしょう》国家として、ファンタジア王国の国王が自らの第二子を王に|据《す》え、ミルヒシュトラーセ辺境伯爵家をその武力として与え、作った国である。

 当然その権威と権力は辺境伯爵よりも公国の王が|優越《ゆうえつ》する――はずだった。辺境伯が|地獄《パンドラ》から賢者の贈り物を見つけるまでは。

 ◇◆◇

 それが見つかったのはミルヒシュトラーセ家邸宅の庭だった。見つけたのは、当時の名でアイ・サクラサクラ―ノヴナ・フォン・ミルヒシネュトラーセ、当代のミルヒシュトラーセ家当主エレクトラの夫オイディプスと|公妾《こうしょう》|サクラ・マグダレーナ《マグダラのサクラ》との間にできた子だった。この|醜聞《しゅうぶん》は厳重に|秘匿《ひとく》されたので、それを知るのはミルヒシュトラーセ家と近しい有力者に限られ、当人のアイですらそれを知らない。

 まだ歩けもしないアイが庭で|乳母《うば》からもエレクトラからも捨て置かれていた時、|地球《じごく》語で「おーい、でてこーい!」という声が聞こえた。勿論アイにはその意味など|介《かい》さぬところであったが、音がする方に|這《は》っていった。するとそこにはちいさな小石が落ちてあった。ふと上を見上げると、穴が開いている。地面に、ではなく空に、だ。

 そこから一冊の本が落ちてきた。其処にはおおよそこの世のものではない言葉で、フランツ・カフカ著『The Judgment』と書いてあったが、もちろんアイにはわからない。ただ古い本のいい匂いに|惹《ひ》かれて身体いっぱいで抱きしめた。

 これをきっかけにミルヒシュトラーセ家邸宅に、不定期に|地獄《ちきゅう》からものが落ちてくるようになった。後に|falls from the skies《ファフロツキーズ現象》と名付けられるこの恵みを独占することによって、ミルヒシュトラーセ家は文化的・軍事的に発展し、自らの王を|傀儡《かいらい》にし、国号をパンドラ公国に変えさせるまでになった。そしてエレクトラはこれを巧みに利用し、世界でも有数の|地獄《パンドラ》先進国を創り上げたのである。

 この|地獄《パンドラ》利権の獲得に|寄与《きよ》したことから、|妾《めかけ》の子であったアイ・サクラサクラーノヴナ・フォン・ミルヒシネュトラーセはその地位を回復し、正式に現当主であるエレクトラの名を|親性《しんせい》に|冠《かん》することを許された、こうしてアイは、アイ・|エ《・》|レ《・》|ク《・》|ト《・》|ラ《・》|ー《・》|ヴ《・》|ナ《・》・フォン・ミルヒシュトラーセになった。

 こうしてアイは、|エ《・》|レ《・》|ク《・》|ト《・》|ラ《・》|の《・》|子《・》|に《・》、なったのである。

 ◇◆◇

 高官たちからの評価は回復したが、エレクトラからの心証は|甚《はなは》だ悪かった。アイの容姿が良くなかった。

 いや、彼の容姿は悪くなく、むしろ世界でも|無比《むひ》の可愛らしさであったが、それが良くなかった。アイは生みの親からそれぞれ容姿を受け継いでいた。

 つまり瞳の色はエレクトラの夫である、実の父オイディプスから受け継いだ、太陽の輝きを宿した|蒼空《そら》の色をしたサファイアの|眼《ひとみ》を|携《たずさ》えていた。そしてそれ以外はすべて実母から、オイディプスの公妾サクラ・マグダレーネから受け継いでいた。

 漆のようなぬばたまの黒髪、|華奢《きゃしゃ》な体躯、新雪の|如《ごと》く輝く白い肌、くりくりと大きな目の形、かなしいほどにうつくしい花の|顔《かんばせ》も、瞳の色以外のそのすべてがサクラと瓜二つであった。

 それが良くなかった。サクラとその美しさを嫌悪しているエレクトラからすれば、アイと|相対《あいたい》するときは常に、もっとも愛する夫ともっとも憎んでいる女が交わった証を突き付けられることに他ならない。故にその姿を認めるたびに、アイに対する憎悪の念は膨らんでいくばかりであった。

 しかもアイが地獄《パンドラ》から賢者の贈り物を見つけた功績によって、サクラまでもが大手を振って肩で風を切り、貴族のサロンを歩くようになった。そのこともアイへの憎しみを雪のように静かに降り積もらせるのだった。

 ◇◆◇

 そして父であるオイディプスもアイにはとても厳しくあたるのだった。アイの性別が良くなかった。アイは男児として生まれてきた。オイディプスは自身の娘たちは目に入れても痛くないほどかわいがり、わがままも喜んで聞き入れ、少しでもつらいことがあれば親身になってその原因を万難を排して潰した。そしてなにより、とても、とてもやさしく愛情をもって接したのである、

 しかし、息子であるアイには真逆の接し方をした。つまり|厳格《げんかく》な態度で扱い、少しでもわがままを言えば、それがどんなにかわいいものでも、教育のために殴った。そしてつらい目に|遭《あ》っていると、

「男なんだから、自分の力でたたかってどうにかしろ!」

「男は泣くんじゃない!」

 と叱責したのであった。|生来《せいらい》争いを嫌いやさしい子であったアイには全く合わない方法であった。加えてなにより、とても、とても厳しく愛情を表に出さずに接したのである。

 これにより母には憎まれ父からは愛情を感じられず、ますますアイは家族の中で息をすることが苦しくなった。もっともこれは父なりの愛情でもあった。実はオイディプスも男だからという理由で父に厳しく、時には殴られて育った。つまり彼は自分がまともに育ったこの方法こそ正しいものであり、息子のためになると信じていた。なにより、彼は|父《・》|か《・》|ら《・》|さ《・》|れ《・》|た《・》|こ《・》|の《・》|方《・》|法《・》|し《・》|か《・》、息子との接し方を|知《・》|ら《・》|な《・》|か《・》|っ《・》|た《・》のである。

 ◇◆◇

 現当主であり、今では母でもあるエレクトラに|蛇蝎《だかつ》のごとく嫌われていても、|実父《じっぷ》であるオイディプスから愛情を感じられなくても、使用人たちから|妾《めかけ》の子として嫌がらせを受けていても、アイをあいしてくれる人がいないわけではなかった。

 ◇◆◇

 まず一番上の兄である、|ア《・》|イ《・》|と《・》|居《・》|て《・》|く《・》|れ《・》|る《・》ゲアーターおにいさま。

 「よう、アイ」

 「おにいさま!」

 「こんなところで何してんだ?|地獄《パンドラ》本大好きなお前が、書庫にもいかず庭の隅っこで日向ぼっこ?……ぷっ、ついに本みてぇーに|紙魚《むし》が涌いたから|天日干《てんぴぼ》しされてんのか。」

 「ちがいますよ!もうっ!確かにあいは本の虫ですけど、本に|湧《わ》く|紙魚《しみ》じゃありません!」

 「じゃー書庫にいる母上にビビッて逃げてきたか?」

 「うっ……ううぅ……」

 「はぁ……しゃーねぇーなぁ。おら、いくぞ!」

 「え?どこにですか?」

 「文学書と哲学書ばっかよんでる不健康な弟に、お兄様が外での遊びを教えてやるっつってんだ!まずは乗馬だ!」

 「えっ!……遊んでくれるのはうれしいけど、お馬さんはまだ、あいはこわいのですが……」

 「うるせぇ!つべこべゆうな!無理やり連れいくぞ!」

 「あの!おにいさま!むりやり抱えないでください!」

 「……!……かるいな!?ちゃんと飯食わせてもらってんのか!?また飯になんかされたらお兄様に言えよ!使用人共ぶっとばしてやるから!」

 「いや、あの……離し……話を聞いてくださいぃ……」

 「大丈夫だ!馬に乗ってる間は俺にしがみ付いてろ!それなら安心だろ!なんせお兄様は最強だからな!な!」

 「もうっ……ふふっ……でもそれなら、あんしん、ですね。」

 「よかったなァ……パンドラ最強のオニイサマが傍にいてよォ……?ほら、最強!」

 「はい!さいきょー!」

 「「さいきょー!!」」

 ◇◆◇

 また一番上の姉である、|ア《・》|イ《・》|に《・》|与《・》|え《・》|て《・》|く《・》|れ《・》|る《・》エゴペーお姉さま。

 「エゴおねえさま!お部屋にいらっしゃらないとは……体調はよろしいのですか?」

 「あらあら、書庫に|籠《こも》りきりのアイちゃんに言われたらおしまいねぇ。わたしだって何時でも|床《とこ》に|臥《ふ》せっているわけではないのよ?アイちゃんこそ、|紙魚《しみ》が|涌《わ》いたから珍しく天日干しかしら~?」

 「……それ流行ってるんですかぁ……?」

 「ふふっ……こうやってからかうと面白いってゲアーターがね~」

 「やっぱりぃ~!んぅ~!」

 「ふくれちゃってかわいいわね~。よしよし~なでなで~」

 「そっそんなことできげんがなおったりしません!もうこどもじゃ……」

 「じゃぁ~やめちゃおうかしら~」

 「えっ……」

 「冗談よ~よしよし~」

 「えへへ……しょうがないからゆるしてあげます!」

 「あいちゃんはいいこね~?そうだ!|折角《せっかく》2人とも珍しく外にいるんだし、なにかしましょうよ。なにがいい?」

 「あいとあそんでくれるんですか!えっと……!えっとえっと……」

 「……ふふっ、おねえちゃんはいなくなったりしないから、ゆっくりでいいのよ~」

 「うん!じゃあね……!あのね……!」

 「一緒にお昼寝でもしながらゆっくり考えましょ〜」

 ◇◆◇

 そして二番目の姉である、|ア《・》|イ《・》|を《・》|み《・》|て《・》|く《・》|れ《・》|る《・》シュヴェスターお姉さま。

 ゲアーターとエゴペーがティールームで談笑していると、シュヴェスターが通りかかった。

 「おっ、シュヴェスターいんじゃん……じゃあ、まぁ……からかうか」

 「そうね、からかわないと失礼よね」

 姉と兄が真剣な顔で顔を突き合わせる。

「おーい!シュヴァちゃーん!」

 シュヴェスターが2人に歩み寄る。

「その呼び方はやめろと何度もいっているだろう、エゴペー」

 「よぉ、シュヴェスター」

 「ゲアーター、なにをニヤニヤしている……用がないのならば行くぞ、じゃあな」

 2人の妹が興味なさげに、|足早《あしばや》に立ち去ろうとする。そこで兄は一番妹が興味があるであろうことを話題に出す。

 「いやぁ……アイがなぁ」

 ピクリ、とシュヴェスターの足が止まる

 「……アイ、だと?アイがどうした?アイになにかあったのか?」

 息もつかずまくし立てる。それにゆっくりと|勿体《もったい》ぶってゲアーターが答える。

 「いやぁ……?べっつにぃ~……ただ初めて馬にあいつを乗せたんだが――」

 「アイを!馬に!?あの子にはまだ早いだろう!なにを考えている!」

 「いやいや、ちゃんと俺の膝にのせてたし――」

 「アイを!膝に!?しかもアイの初めての乗馬をお前にぃ!」

 ギリギリと歯を食いしばる妹に今度は姉が追撃する。

 「この前アイちゃんとばったり会ってね〜」

 「アイと!ばったり!?」

 「いや、まだ何もいってないけど……。アイちゃんを抱っこして、一緒に日向ぼっこしながらお昼寝しちゃった〜」

 「くそっ!ここにも敵が!」

 楽しそうに笑う上の子2人を、頭を抱えて|睨《ね》めつける妹が1人。

「いや、敵ってなぁ、オニイサマはかなしいな〜」

「昔は、こーんなにちっちゃかったのにね〜」

 エゴペーがかがみ込んで床スレスレまで手のひらを近づける。

「|蟻《あり》か!わたしは!……それよりもだ!」

 「そんなに怒ってるとまたアイちゃんに怖がられちゃうわよ〜?」

 「アイの前でのしっかり者の姉のキャラ作りすごいもんな、ブラコン隠して騙せてんのアイだけだろ」

 「私はブラコンじゃない!今はアイがいないからいいんだ!」

 「あっアイちゃん、どうしたの?」

 姉が妹の後ろに目をやって声を掛ける。

「アイ!?……コホンっ……どうした?アイ?こんなところで……」

 「声作ってるとこ悪いけど~アイちゃんいないよ〜?」

 振り返るが人っ子ひとりいない……。

「おい……オマエラァ……」

 わなわなとシュヴェスターが震える。

「分かるだろう?アイは世界でいちばん可愛らしく……|世《・》|界《・》|で《・》|い《・》|ち《・》|ば《・》|ん《・》|う《・》|つ《・》|く《・》|し《・》|い《・》……だから……心配なんだ……。」

 「それには同意するわ〜」

 「別にいーじゃぁねーか、|ブ《・》|ラ《・》|ン《・》|コ《・》でもよ」

 「私はブランコじゃない!|ブ《・》|ラ《・》|コ《・》|ン《・》だ!」

シュヴェスターが胸に手を当て高らかに宣言する。

「いや、ブラコンでもな――」

 「おっアイ、どーしたんだ?」

 ゲアーターがニヤニヤしながら|白々《しらじら》しく|宣《のたま》う。

 「その手には乗らんぞ!貴様らはまったく!」

 「お……おねえさま……?」

 「…………。」

 ギギギと振り返ると怯えたアイが胸の前で手をぎゅうっとにぎって立っている。

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